TPPはアメリカの陰謀である

 

1.TPPとは

 

TPP(正式名:Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement

略して Trans-Pacific Partnership)については、20111月のダボス会議で菅直人首相(当時)が「第三の開国」と言い出して参加を表明してから脚光を浴びるようになったのではないか。太平洋を囲む国々が全ての関税を例外なく撤廃し貿易の自由化を図ろうというものである。しかしここには肝心な中国や台湾や韓国が入っていない。その後前原誠司が「TPPお化け」とか「1.5%の農業を守るために、残りの98.5%を犠牲にしていいのか」とか言い出している。また経団連会長の米倉弘昌は「TPPに参加しなければ日本は世界の孤児になる」と言い出す始末である。政界、官僚、財界、マスメディア、有識者と呼ばれる人たちの雰囲気は「バスに乗り遅れるな」といういつか聞いたような言葉に踊らされている。一方、反対派は共産党、社民党を始め、農業関係者、あるいは農業利権享受者、医療、保険関係者に特定されているようだ。多くの一般の国民にとって「何のこっちゃ?」と思っているか、あるいは全く無関心かいずれかなのではないかと思える。しかし、このような状況の中、新自由主義、規制緩和、金融自由化、グローバリズムからリーマンショックを経てグローバル恐慌とも言える今日の世界経済情勢を歴史的に振り返ると、TPPがどのような位置づけにあるのかが見えてくる。それはアメリカによる経済的な日本収奪計略であることがわかる。

 

2.「TPP亡国論」

http://t3.gstatic.com/images?q=tbn:ANd9GcSmdRsPi4y9Cn3GWaievsTWCyuBwm1JflYMO-407SOvZKmZOAlYwg  TPP亡国論 (集英社新書)クリックしても中は見られません

中野剛志氏

 

 「TPP亡国論」中野剛志著という本がある。著者は保守の論客と思われる。しかし、ここにはTPPに参加することの愚かさ、その理由が的確に書かれていると思う。要約すると次のようになる。

@日本の関税率は2.6%とアメリカより低い。農産品26%は決して高くない。穀物自給率はわずか。日本は既に十分開国してい る。TPPに  参加したとするとGDPを見るとアメリカ、日本で95%に達する。アメリカも日本も輸出先はお互いしかなく、他 の小国への輸出は期待でき ない。関税より為替変動の方が、はるかに大きな要素になる。

Aデフレ下での貿易自由化はさらなるデフレを促進する。グローバル化した世界では輸出主導の成長は貧富の格差を拡大さ せる。日本 は内需主導の成長を目指すべき。

BTPP賛成論者は世界の構造変化やアメリカの戦略を全く見誤っている。リーマンショックは住宅バブルに沸くアメリカの 過剰な消費と輸 入が世界経済を引っ張るという2002年〜2006年までのグローバル化が破綻した結果だ。アメリカはこのい びつな世界経済の構造を是 正するため、アメリカ経済の深刻な不況から脱するため、自国の雇用確保と輸出倍増戦略に転 換した。もはやアメリカにはアジア太平  洋地区に互恵的な貿易関係を築こうという気もなければ余裕もない。自国の国益 しか頭にない。そしてターゲットは日本である。

 

3.「TPP亡国論」のなかの農業論議

 

 安全保障というと私たちはすぐに軍事面だけを思い浮かべる。しかし本書の農業論議を食料の安全保障という視点で見ると、日本は実に危うい立場にある。これは当然歴代の自民党政権の農業政策の責任が大きい。

 

以下要約です。

 

カロリーベースの食料自給率

アメリカ

128%

フランス

122

ドイツ

84

イギリス

70

日本

40

 

穀物自給率(2003年)

フランス

173

アメリカ

132

イギリス

99

日本

27

 

日本の品目別食料自給率(2007年重量ベース)

94

野菜類

81

牛肉

43

小麦

14

大豆

5

トウモロコシ

0

国内産飼料

10

 

ここで問題は、日本の伝統的な食文化である味噌、醤油、豆腐の原材料の大豆は95%海外に依存している。また牛肉43%であるが、その餌の90%は海外に依存している。しかも穀物類のアメリカへの依存度は高く、小麦:60%、大豆:70%、トウモロコシ:95%以上である。

そしてもっと恐るべきことは、「F1品種」問題がある。

F1品種」とは品種の優秀性が一代限りの性質を持つ農産物。現在市販されている野菜の90%以上がF1品種となっており、アメリカのモンサント社が独占している。日本の野菜農家は生産性を最重視しているため、その種子をモンサント社から買い続けなければならない状態になっている。野菜の自給率が80%といっても,その種子はアメリカからの輸入なのだ。

 

こうして見ると、日本は将来に渡って本当に食料を確保できるのだろうかと不安になる。本当に背筋が凍りつく思いだ。「国防軍」などと言って、アメリカの下請け軍隊にお金をつぎ込むのではなく、将来に渡ってどうやって(文字通り)食って行くかを考えるべきだ。

 

4.アメリカの戦略

 

 アメリカは、全世界に国債という名の紙っぺらを売りつけてマネーをかき集め、贅沢三昧をしている。そしてそのマネーで戦争もやっている。日本がアメリカ国債を売りたいと言っても、アメリカは許さない。返すお金がないからだ。もはやねずみ講状態で、早晩破綻する国家のように思える。ではアメリカの強みは何か?自動車はダメ、電気はダメ、工業製品は壊滅である。競争力のある産業は農業と金融であり、これの輸出を伸ばしたいと考えている。

 TPPはアメリカの、アメリカによる、アメリカのための自由貿易協定に過ぎない。言ってみれば、アメリカ民主党が農業団体の票が欲しくてやっているようなものだ。日本の農業関係団体はこれに反対している。日本の農業が壊滅する恐れがあるからだ。確かに日本の農業は問題が多い。利権構造も働いている。その利権を破壊したいがためにTPPに賛成している人たちもいるだろう。アメリカに日本の農業を売り渡すと、より強大なアメリカの農業団体ロビイストの利権構造が出来上がるだけだ。食料を自給できない日本はアメリカの言いなりの値段で食料を売りつけられ、日本の富がアメリカに吸い上げられることになる。TPP賛成論者は日本の農業利権には目くじらを立てるが、アメリカの農業利権を認めるつもりなのか。

 もう一つの大問題は、医療である。国民皆保険が壊滅する恐れがある。金持ちは高額の医療保険に入って十分な治療が受けられるが、貧乏人は病院にもいけないというアメリカのような社会になる可能性がある。日本の国民皆保険という素晴らしいシステムがアメリカによって土足で踏みにじられてしまう。そしてアメリカの保険会社はボロ儲けするのだ。

 さらにTPPにはISD条項がある。相手国の社会規制、安全規制などによって投資した外国の会社が不利益を被った場合、相手国を訴えることができる。

 こうして見ていくとTPP参加などとんでもないことだということがわかる。幸い自民党には農業利権享受者が多く、反対派が多い。アメリカに利権が渡ったら二度と取り戻せない。残念ではあるが、まだ自民党が利権を握っていたほうが良い。

 

「戦後史の正体」「アメリカに潰された政治家たち」の著者、孫崎享氏もTPPの危険性を指摘している。

 

5.アメリカさんよ、日本は「あなたとは違うんです。」(どこかで聞いた言葉?)

 

 世界には多様な民族、人種がいてそれぞれ異なった歴史、文化、伝統がある。それを画一的なグローバルスタンダード(実はアメリカンスタンダード)に当てはめようとしても無理が生じる。グローバリゼーションは世界経済に大混乱を与え、もはや破綻したと考えるべきだ。新自由主義、金融資本主義の破綻でもある。

日本は2000年からの歴史があり、独自の文化、伝統がある。日本は島国であり、外国民族からの驚異は少ないものの、常に自然災害に脅かされ、肩を寄せ合いながらお互い助け合って生きていくしかない中で、長い歴史を育んできた。

一方のアメリカは、ヨーロッパから渡ってきた西洋人が、原住民を虐殺し、富と土地と資源を略奪し、それを繰り返しながら建設した一種の「理念国家」である。その歴史はたかだか二百数十年である。歴史に育まれた民族のDNAがない。自然と共生しながら生きた経験もない。自然はいきなり征服すべき対象でしかない。長い歴史、文化、伝統がない代わりにあるのは国家建設の「理念」だけである。彼らが掲げる錦の御旗「自由」とは「虐殺する自由」「略奪する自由」とさえ思えてしまう。もう少しいい言い方をすれば「金儲けする自由」か?しかしその裏には金儲けのためには何をしてもいい「自由」が含まれているのではないか。もう一つの「自由」は国家権力からの「自由」である。国家権力の規制を受けない代わりに自分の身は自分で守る、すなわち「銃を持つ自由」である。学校で銃乱射事件が起きると、銃規制が議論されるのではなく、銃で武装したガードマンを置いた方がいいという議論がされる国である。1%の富者は99%の貧者に対して「貧者であるのは自助努力が足りないからだ」と平気で言い放つ。富者は高額の医療保険を払い、十分な治療を受けられる。貧者は無保険で病院にもかかれない。この辺は、マイケルムーア監督の映画「シッコ」に詳しい。

今や世界の厄介者、世界最大のテロ国家、悪の枢軸アメリカとは距離を置いた方が身のためと思う。




inserted by FC2 system